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コイルの仕組みとは? 回路設計に必要な鉄心特性も解説

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コイルの仕組みとは? 回路設計に必要な鉄心特性も解説

電子機器の回路設計において、コイル(インダクタ)はエネルギーの蓄積やノイズ除去を担う主要な受動部品です。しかし、実運用においては「大電流を流すと想定よりもインダクタンスが低下してしまう」「基板上で鉄心が異常発熱する」といったトラブルが設計現場で発生することが少なくありません。

このような問題の多くは、設計段階でコイル特有の磁気的な振る舞いや損失メカニズムを十分に考慮できていないことに起因します。仕様書上の基本数値だけでなく、環境や条件によって変化する特性を正しく把握しておかないと、システム全体の動作不良や部品の焼損を引き起こす恐れがあります。

本記事では、コイルの基本的な動作原理から、実務で直面する鉄心特性や損失のメカニズムまでを詳しく解説します。これから回路設計に携わる技術者に向けて、適切な部品選定とトラブル回避の道筋がわかる内容となっていますので、ぜひ設計の参考にしてください。

1. コイルの仕組みとは

コイルが回路内でどのように機能するのかを理解するためには、電気と磁気の相互作用を把握しておく必要があります。単に直線のまま電流を流す導線とは異なり、線を螺旋状に巻くことで特有の電磁気学的な現象が生じます。ここでは、そのベースとなる電磁誘導と自己誘導について見ていきましょう。

電磁誘導と磁束の発生

導線に電流を流すと、その周囲には磁界が発生します。導線を何重にも巻いてコイル状にすると、それぞれの線から発生した磁界が足し合わされ、内部に強力な磁界が作られます。図にソレノイド型とトロイダル型のコイルについて、電流の向きと磁界の向きを示します。どちらも磁界の強さは導線の巻数に比例します。

また、コイルの周囲にある磁界が外部の要因によって変化すると、コイルはその変化を打ち消そうとする方向に電圧(誘導起電力)を発生させます。この現象が電磁誘導です。回路に予期せぬノイズや電圧変動が侵入した際、コイルはこの電磁誘導の働きによって変動を抑え込もうとするため、電源ラインのフィルター用途などで広く活用されています。

長さlのソレノイドコイル 半径rのトロイダルコイル

自己誘導とインダクタンス

電磁誘導は外部からの磁界変化に対して起こる現象ですが、コイル自身に流れる電流を変化させた際にも同様のことが起こります。電流が時間的に増減するとコイル内部を通る磁束も自ら変化するため、その変化に逆らう方向に起電力が発生します。この現象が「自己誘導」です。

この自己誘導によって生じる抵抗力(起電力)の大きさを表す固有の係数がインダクタンスであり、単位はヘンリー(H)で表記されます。インダクタンス値が大きいコイルほど、電流の変化に対して強いブレーキをかけるように働くため、より大きなエネルギーを蓄積したり、高い周波数のノイズを効率よくカットしたりすることが可能です。回路が求める応答速度やカットしたいノイズ帯域に合わせて、最適なインダクタンス値を持つ部品を選定することが求められます。

2. コイルの基本構造

コイルは用途や実装スペースに応じてさまざまな形状で作られていますが、基本的な構成要素はシンプルです。電流を流す導線部分と、それを保持したり磁束の通り道を確保したりする部材から成り立っています。それぞれの要素が担う役割を解説します。

巻線とボビン

コイルの主体となるのが、実際に電流が流れる巻線です。一般的には、銅やアルミなどの導体の表面を絶縁性の樹脂で薄くコーティングしたマグネットワイヤー(エナメル線)が用いられます。表面が絶縁されているため、限られた空間に何重にも密巻きにしてもショートすることなく機能します。

そして、この巻線を整然と巻き付けるための土台となる構造物がボビンです。ボビンは樹脂などの絶縁材料で成形されており、巻線の形状を物理的に一定に保つ役割を持ちます。巻線の乱れは寄生容量(意図せず発生するコンデンサ成分)のばらつきにつながるため、ボビンを用いて均一に巻くことで、共振周波数のばらつきも防止し、設計通りの安定した高周波特性を得やすくなります。また、基板へ実装するための端子ピンを固定する役割も担っています。トロイダル型の場合は、樹脂ケースに納めたり、圧粉鉄心のように表面をエポキシコートして適用します。巻線は手作業で行われることが多いですが、大量生産には自動巻線機が適用されるようになりました。

ソレノイド型の樹脂ボビン トロイダル型の樹脂ケース
ソレノイド型の樹脂ボビン トロイダル型の樹脂ケース

鉄心の有無による違い

コイルの中心部分(磁路)に鉄心を配置するかどうかで、得られる特性は大きく二極化します。設計要件に合わせて使い分けることが重要です。

  • 有芯コイル:鉄心に巻線を配置した構造です。電流によって発生した磁界は、空気よりも透磁率が高い鉄心に沿う磁路に集中して通過します。コイルに鉄心を適用したときのインダクタンスの大きさは、鉄心の透磁率と寸法で決まるAL値に比例します。鉄心は空気の透磁率の数倍~数万倍なので少ない巻数でも大きなインダクタンスを得ることができます。小型化に有利なため、DC/DCコンバータなどの電源回路に広く採用されています。一方で、磁気飽和(後述)や鉄損に起因する発熱に注意する必要があります。
  • 空芯コイル:巻線のみ、あるいは樹脂などの非磁性体のみを適用した構造です。電流によって発生した磁界は、低透磁率の空気中を通過するため、高いインダクタンスを得ることは難しくなります。一方で、磁気飽和を起こさないので大電流や高周波領域でも特性が安定し、鉄損による発熱を考慮しなくて済むメリットがあります。
円柱型の鉄心 リング型の鉄心

3. コイルの主要特性と損失

回路設計でコイルを選定する際、インダクタンス値だけを見て決めるのは危険です。実装後に電流を流した際の特性変動や、熱として失われるエネルギー損失を正しく評価しなければなりません。実務で必ず確認すべき3つの主要特性について解説します。

直流重畳特性と磁気飽和

コイルに直流電流を徐々に流していくと、インダクタンス値が低下する現象が発生します。これを直流重畳特性と呼びます。インダクタンスが下がる原因は、鉄心磁束密度が限界に達してしまう「磁気飽和」という現象にあります。インダクタンスの電流に対する減少の仕方は鉄心材料によってまちまちです。一般に珪素鋼板、アモルファスなどの板材やMnZnフェライトは低電流ではほとんどインダクタンスの変化がありませんが、ある電流値に到達すると急激に低下します。一方、圧粉鉄心は電流が大きくなると共に、ゆっくりとインダクタンスが減少します。

鉄心が内部に通せる磁束の量には、素材固有の上限が存在します。大電流が流れて磁束が飽和状態に達すると、それ以上電流を増やしても磁束の増減が起こらなくなります。その結果、コイルは電磁誘導の働きを失って単なる導線のように振る舞い始めます。

スイッチング電源回路などでインダクタンスが急減すると、コイルはその機能を失い、周囲の半導体部品を瞬時に破壊する危険があるため注意が必要です。回路の最大ピーク電流を見積もり、その電流値を流しても磁気飽和を起こさない十分なマージンを持ったコアを選定しなければなりません。定常使用の電流値だけでなく、回路の一部に不具合が発生した時だけ流れる大電流を想定して、その際も一定のインダクタンスを保つよう設計し、焼損事故を防ぐ設計をすることが多いです。

トロイダルコイルの直流重畳特性例
鉄心材料による直流重畳特性の違いを示す。
横軸は電流×巻数を磁路長で割ったもの。
縦軸はAL値を直流電流0A時の値で規格化し、100%としたもの。
鉄心サイズは同一、FeSi6.5%珪素鋼板(ギャップ入り)以外は圧粉鉄心である。

磁気飽和を遅らせ、高い電流でも一定のインダクタンスを保持するために、板材の鉄心では磁路にエアギャップを入れるのが普通です。エアギャップ部を含むと磁気回路全体の有効な比透磁率が下がり、磁気飽和が遅れます。図は方向性一般珪素鋼板のギャップの長さをパラメタにした場合の直流重畳特性を表します。ギャップ長が長いほど0A時のインダウタンスが低くなり、高電流まで曲線が伸びていることが分かります。しかし、ある程度のギャップ長になると、その効果が薄れてくることもわかるでしょう。ギャップを設けると漏洩磁束が発生して発熱の原因になるので、必要以上のギャップ長にはしないことが大切です。

方向性一般珪素鋼板のトロイダルコイル直流重畳特性例
方向性一般珪素鋼板を適用したトロイダルコイルの直流重畳特性。
パラメタはギャップ長。
外径45mm, 内径25mm, 高さ20mmの鉄心に30ターン巻線をした例
ギャップ入りのトロイダル型の鉄心。
板材を巻いて作成した鉄心を一部カットしてギャップ(空気層)を入れる。
実効透磁率を下げることにより、磁気飽和を遅らせる効果がある。
ギャップ付トロイダルコア

鉄損(コアロス)

コイルを交流回路やスイッチング回路で使用する際、コア部分で発生するエネルギー損失(発熱)を鉄損(コアロス)と呼びます。鉄損は、主にヒステリシス損と渦電流損という2つの要素から成り立っています。ヒステリシス損は磁壁移動と磁化反転の抵抗による「磁気的な損失」であるのに対し、渦電流損は鉄心コアに流れる電流と抵抗による「電気的な損失」です。

ヒステリシス損は、交流電流によって鉄心内部の磁束の向きが反転する際、磁気的な摩擦のような抵抗が生じることで発生する損失です。一般に周波数に比例し、最大磁束密度 の約1.6乗〜2乗(シュタインメッツの実験式)に比例して増大します。一方の渦電流損は、磁束の変化によって鉄心内部に電磁誘導が起き、鉄心の素材そのものに局所的な渦状の電流が流れることで生じるジュール熱を指します。渦電流損は、周波数fの2乗、最大磁束密度Bmの2乗に比例し、材料の電気抵抗率ρに反比例するという特性を持っています。さらに寸法要素として、珪素鋼板やアモルファスのような板材の場合、渦電流損は板厚dの2乗に比例、圧粉鉄心のように粉末をプレスして製造する材料の場合は、磁性粉の粒径dの2乗に比例します。すなわち、渦電流損Peddy∝f 2・Bm2・d 2/ρです。高周波駆動が求められる現代の電源回路においては、鉄損が小さい材料を適切に選定して熱対策を行うことが重要です。

銅損(巻線抵抗)

鉄損が鉄心で発生する損失であるのに対し、巻線そのもので発生する電力損失を銅損と呼びます。導線には必ずわずかな電気抵抗(直流抵抗:DCR)が存在するため、電流が流れるとジュール熱が発生してエネルギーが失われます。

銅損を減らすためには、より太い導線を使用するか、巻数を減らして線の全長を短くする必要があります。しかし、線を太くすれば部品サイズが肥大化し、巻数を減らせば必要なインダクタンスが得られないというトレードオフが生じます。さらに、高周波の交流電流を流す環境では、表皮効果と呼ばれる現象によって電流が導線の表面付近にしか流れなくなります。これにより、実効的な抵抗値が上昇して銅損がさらに悪化してしまうのです。

サイズ、目標インダクタンス、許容できる損失のバランスを見極めながら、最適な線材径を決定していくことになります。

4. 回路設計の注意点

コイルの仕組みや損失要因をふまえた上で、実際に基板へ組み込む際の具体的な注意点を見ていきます。電源回路などではコイルの挙動がシステム全体の安全性に直結するため、現場でのトラブルを防ぐための適切な配慮が必要です。

許容電流と発熱対策

コイルのデータシートには必ず「定格電流」や「許容電流」が記載されていますが、多くのメーカーではこれを2つの異なる基準で規定しています。選定時にはそれぞれの意味を正しく読み解く必要があります。

  • 直流重畳許容電流:前述の磁気飽和によって、インダクタンスが規定の割合(例:初期値から10%〜30%の低下)に達してしまう時点の電流値です。
  • 温度上昇許容電流:銅損や鉄損による自己発熱によって、コイル表面の温度が規定の値(例:室温から40℃上昇)に達する時点の電流値です。

回路のピーク電流が直流重畳許容電流を下回っているかを確認すると同時に、連続して流れる実効電流による発熱が、システムの冷却能力の範囲内に収まっているかを検証しなければなりません。コイルは自己発熱を伴う部品であるため、基板上で他の熱源となるICから距離を離したり、放熱用の太い銅箔パターンを配置したりといった熱設計上の工夫が求められます。

漏れ磁束・ノイズ対策

コイルは原理上、周囲に強力な磁界を発生させます。とくに、磁気回路が完全に閉じられていない開磁路タイプのコイルは、外部へ漏れ出る磁束(漏れ磁束)が多い構造です。この漏れ磁束が近接する他の信号線やICに干渉すると、誘導起電力を生じさせてノイズとなります。これが、回路の誤動作や通信エラーを引き起こす原因です。先に述べたようなギャップを磁気回路上に設けた場合もこれに含まれます。

このような磁気干渉を防ぐためには、鉄心が一周して元に戻るように構成し、磁束を内部に閉じ込める閉磁路タイプのコイルを選定することが有効です。また、基板のレイアウトにおいても、コイルの直下や至近距離にアナログ信号線などノイズに敏感なパターンを配線しないといった配慮が必要です。電磁気学的な振る舞いをイメージしながら、適切な部品選定とパターン設計を行うことが、安定したシステム動作につながります。

5. まとめ

安全で安定した回路を構築するためには、インダクタンス値などの基本スペックだけでなく、実動作時の直流重畳特性による磁気飽和や、高周波駆動に伴う鉄損・銅損の発熱リスクを事前に見積もり、用途に適した部品を慎重に選定することが求められます。

株式会社尾関は、100年以上の歴史を持つ電子部品・磁性材料の専門商社として、多様な電子部品の調達から技術的な提案まで幅広く対応しています。長年培ってきた磁性材料に関する専門知識を活かし、お客様の回路設計における課題解決や、最適なインダクタ・トランス部品の選定をきめ細かくサポートいたします。

部品選定や磁気特性の評価でお悩みの方や、導入をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。

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