コイルに鉄心(コア)を入れる理由とは? 磁場の発生原理から鉄心の役割、効率を高める磁性材料まで解説

電子機器の性能を左右するコイルは、産業用ロボットや電気自動車、インバータ、パワーコンディショナなど、さまざまな分野で活用されています。
その能力を最大限に引き出すために欠かせない存在が鉄心(コア)です。鉄心の有無や材質の選定は、製品の効率やサイズ、コストに大きく影響します。
本記事では、磁場の基礎知識から鉄心が果たす役割、磁性材料の選定基準まで解説します。
- 1. 磁場の発生原理
- 1-1. 電流による磁場の発生
- 1-2. 磁場の方向
- 1-3. 電磁誘導の応用
- 2. 鉄心が必要な理由
- 3. 磁性材料の選定基準
- 3-1. 周波数帯域の適合
- 3-2. 磁束密度の確認
- 3-3. エネルギー損失の抑制
- 4. 産業分野での活用事例
- 4-1. 変圧器
- 4-2. リアクトルの波形整形
- 4-3. モータの動力変換
- 5. まとめ
1. 磁場の発生原理
電流は磁場を発生する源です。理科の電磁石の実験で、釘にエナメル線を巻いて電流を流すと砂鉄がくっつくという経験をした方も多いのではないでしょうか。これは、電流によって磁場が発生し、磁性材料である釘(=鉄)が磁化されて磁力を持ったことによります。磁石の極性をN極、S極のように呼ぶことから、電気のプラス極、マイナス極との類推をする方も多いと思いますが、電場の源であるプラス、マイナスの電荷に対応するようなN極、S極の「磁荷」は存在しません。磁界の源は電流です。まずは基本の原理を見ていきましょう。
電流による磁場の発生
まっすぐな導線に電流が流れると、その周りには円形状の磁場が生じます。電流とその周囲に発生する磁場の関係を表す電磁気学の基本法則は「アンペールの法則」と呼ばれるもので、電流が強いほど磁場の強さも大きくなります。磁場の単位はA/m(アンペア/メートル)です。
巻数を増やしてコイル状に導線を巻くと、多数の小さな磁場が重なり合い、コイル内部に強力な磁場が集中するようになります。この磁場をいかに効率よく発生させるかが、トランスやモータといった電磁機器の性能を大きく左右します。
代表的なコイルの巻き方として、ソレノイドとトロイダルが挙げられます。アンペールの法則から導かれる磁場の強さHは次の式で表されます。
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どちらの式にも、分子にnI(コイルの巻数×電流)が含まれていることに注意してください。このnIをアンペアターンと呼びます。分母は、ソレノイドの場合はコイル長、トロイダルの場合は周長を表しています。これを磁路長と呼びます。このことから、磁場の強さは巻数と電流に比例し、磁路長に反比例することがわかります。
磁場の方向
磁場は大きさと向きをもつベクトルで、電流の流れる方向によって向きが決まります。これを直感的に理解しやすいのが「右ねじの法則」で、親指が電流の向きを、他の指が磁場の方向を示す形で関係付けられます。上の図にも磁場の方向を示していますので、右ねじの法則を確かめてみてください。
この特性を応用すると、巻数や巻き方を工夫することで、磁力を意図した方向に集中させたり、回転磁場を作り出すことが可能になります。精密機器や産業用モータでは、磁場のベクトルを緻密に制御する技術が不可欠です。
電磁誘導の応用
磁場が時間的に変化すると周囲の導体に電圧が生じる現象を「電磁誘導」と呼びます。ファラデーの法則に基づくと、磁束の時間的変化が大きいほど誘導電圧も大きくなります。この原理は、非接触給電や変圧器、リアクトルなどに応用されています。
電気と磁気の動きを予測するために、次の3つの法則を把握しておくと設計がスムーズです。
- アンペールの法則:電流、巻数、コイル寸法から磁場の強さがわかる
- 右ねじの法則:電流の向きから発生する磁場の方向がわかる
- ファラデーの電磁誘導の法則:磁場が時間的に変化すると導体に電圧が誘起される
2. 鉄心が必要な理由
一般に、コイルは鉄心を挿入して使います。なぜ鉄心を入れると性能が大きく変わるのか、その理由を解説します。
磁路の集約効果
鉄心は、磁力線の通り道である磁路を形成します。空気中では四方八方に広がりやすい磁力線を、鉄心内部に誘導して集中させる役割を担います。電気の導電率に対応して、磁力線を集中させる材料固有の性質を透磁率と呼び、記号μで表します。単位は[H/m]です。空気(厳密には真空)にも透磁率があり、それを1とすると、鉄心に使う軟磁性体の透磁率は数十~数万に及びます。
軟磁性体を磁場が通過したときの応答を磁束密度と呼び、記号Bで表します。単位はテスラ[T]です。磁束密度と磁場の関係は透磁率μを用いて次のように表されます。
磁性体のカタログでは、透磁率μが真空の透磁率μ0に対して何倍か=比透磁率を使って表すことが多く、これをμrと書きます。すなわち、μ=μ0μrなので次式となります。

この結果、コイルに鉄心を入れると磁束密度が飛躍的に高まり、同じ電流でも強力な吸引力や誘導起電力を得ることができるようになります。コイルの構造を工夫すると、コイルの端から漏れる磁束を最小限に抑えることができ、装置全体のエネルギー損失を低減できます。
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透磁率の高さ
磁性材料は、空気と比較して磁力線を非常に通しやすい性質を持っています。この通りやすさを表すのが透磁率で、鉄をはじめとする各種軟磁性材料はこの値が極めて高いのが特徴です。
鉄心を挿入すると、コイル単体よりも数十倍から数万倍の磁力を発生させることができます。この高透磁率という特性が、機器の小型化や高効率化を可能にしています。なお、数式では磁束密度と磁場は比例関係にあるように見えますが、実際にはより複雑な関係になっており、磁場が十分に大きい値になると磁束密度は一定値に飽和してしまいます。これは磁束密度の大きさが、物質を構成する電子のスピン(微小磁石のイメージ)に起因しており、磁場の効果はスピンの方向を磁場の向きに揃えること、磁束密度はスピンがどの程度磁場の向きに揃っているかを表すからです。この考え方は磁化曲線を理解する時に必要になります。この考え方では、次式のように磁束密度を磁場で微分したものが透磁率、と考える方がわかりやすいかもしれません。

実際、よくカタログに示されている初透磁率μiは、磁場H=0近傍の磁束密度の立ち上がりで定義されます。
出力性能の底上げ
鉄心の存在は、電磁機器の定格出力を大幅に向上させます。少ない電流で大きなモータのトルクや推力を発生させるために、飽和磁束密度Bsの高い素材が選ばれることが多いです。
飽和磁束密度とは、その材料が保持できる磁束密度の限界量を指します。この値が高いほど、大電流を流した場合でも安定した磁力供給を維持できます。
鉄心がもたらすメリットを整理すると、次のようになります。
- 小型化:少ない巻数で大きな磁束密度を得られるため装置を軽量化できる
- 高効率化:磁束の漏れを防ぐことでエネルギーの無駄を排除できる
- 応答性の向上:鉄心の高い透磁率により電流を少し増やしただけでも急激に磁束密度が立ち上がるため、制御電流に対する磁束密度の応答性が向上する
鉄心の導入は、現代の電気工学において必要不可欠な設計手法です。
3. 磁性材料の選定基準
鉄心に用いる材料には、純鉄以外にもフェライトや電磁鋼板など多くの種類が存在します。ここでは、材料を選ぶ際のポイントを解説します。
周波数帯域の適合
例えば、駆動する電源回路のキャリア周波数によって、適した材料は異なります。50Hz/60Hzの商用電源のような低周波数帯では電磁鋼板が多用され、高周波ノイズの抑制やトランス用途などに広く使われます。
一方、kHzからMHzの高周波用途では、フェライトや圧粉鉄心が選ばれることが多いです。鉄心は金属や合金でできているので、時間的に変化する磁場を通すとファラデーの電磁誘導の法則によって、自分自身に電流が発生します。この電流は渦電流と呼ばれ、発熱や損失の大きな原因の1つです。酸化物の軟磁性材料であるフェライトは電気抵抗が高く、高周波域での渦電流による発熱を抑える特性を持っています。
磁束密度の確認
磁力の強さや扱う電流レベルに応じて、飽和磁束密度の高い材料を選びましょう。例えば、大電流を扱うパワーコンディショナ用トランスやモータの鉄心には、純鉄系やアモルファス材料など、磁気飽和しにくい素材が用いられるのが一般的です。この点は、小型化や高出力化を考えるうえでも重要です。
エネルギー損失の抑制
磁性材料には、磁気を繰り返し変化させることで発生する鉄損があります。これにはヒステリシス損と渦電流損が含まれます。
これらを抑えるためには、薄い鋼板を積み重ねた積層構造や、電気抵抗の高いフェライトなどが活用されます。低損失設計は、発熱の抑制や長寿命化に直結するため、とくに産業機器では重要なポイントです。近年は圧粉鉄心の性能が著しく向上し、形状の自由度が高いため、多用されるようになりました。
材料選定の際に確認すべき指標は、以下のとおりです。
- 残留磁束密度の低さ:電流のon-offに対して磁束密度もon-offすることが重要。磁気を帯びやすく、かつ磁気が残りにくい性質の指標として残留磁束密度があり、この値が低いほど軟磁性体として性能が優れている
- 電気抵抗率:渦電流による発熱を防ぐための抵抗値のチェック
- 耐環境性:特に温度変化に対する磁気特性の安定性の評価
用途に合致した材料選びが、製品の性能・コスト・信頼性をバランスよく決める鍵になります。
4. 産業分野での活用事例
コイルと鉄心の組み合わせは、電力設備から産業機械まで、さまざまな分野で使われています。ここでは、代表的な活用例を見ていきます。
変圧器
変圧器(トランス)は、鉄心に一次巻線と二次巻線を巻き付けて電圧を変換する装置です。一次側のコイルで発生した磁束を鉄心が効率よく二次側へ伝え、電磁誘導によって電圧を上下させる仕組みです。
この際に、高透磁率で低損失な鉄心を用いることで、エネルギー損失を抑えた高効率な電圧変換を実現できます。再生可能エネルギーからの電力変換や、産業用電源にも広く採用されています。
リアクトルの波形整形
リアクトルは、電流の急激な変化を抑制したり、ノイズを除去したりする役割を果たします。
パワーコンディショナやインバータ回路において、電流の波形を滑らかにするために鉄心入りコイルが配置されます。これにより、スイッチング時に発生する急峻な電流変化を穏やかにし、機器の保護やノイズ対策につながります。
モータの動力変換
モータの内部には、回転磁界を作るためのコイルと鉄心が複雑に配置されています。
鉄心があることで磁力がローター(回転体)に集中し、強力な回転エネルギーを生成できます。産業用ロボットや工作機械では、この磁気回路の設計が制御精度やレスポンスに大きく影響します。
産業界における磁性部品の用途は、次のように分類できます。
- 電力変換:再生可能エネルギーを家庭用電力へ変換するパワーコンディショナなど
- 電気機械:ロボットアームや工作機械を動かす高精度モータ
- 通信制御:無線機やデータセンタ内の電源ノイズをカット
こうした多様なニーズに応えるため、鉄心の形状や材質は用途に応じて最適化されています。
5. まとめ
コイルに鉄心を入れる最大の目的は、磁場の通り道を確保して磁束密度を高めることです。これにより、空気中では得られない強力な磁束密度を生成し、装置の小型化や高出力化を実現できます。
適切な磁性材料を選ぶことは、エネルギー損失を抑え、過酷な使用環境下でも安定したパフォーマンスを発揮させるために欠かせません。設計段階での材料選定や、用途・周波数帯に合った磁気回路設計を丁寧に進めることが大切です。
当社では、コイルやリアクトル、トランスのカスタム対応を行っております。用途に応じた最適設計から製品評価まで、一貫してサポートしています。短納期でのフルカスタム品にお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。







