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コモンモードチョークコイルとは? 役割から具体的な用途、選定基準を解説

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コモンモードチョークコイルとは? 役割から具体的な用途、選定基準を解説

電子機器の回路設計では、外部に漏れ出すノイズへの対策が求められます。なかでもコモンモードノイズは、機器の誤動作やEMC規格の不適合につながりやすく、開発・設計の現場で対処が必要な問題です。コモンモードノイズを効果的に抑制するために広く使用されているのが、コモンモードチョークコイルです。

本記事では、コモンモードチョークコイルの役割から具体的な用途、選定時のポイントを解説します。

1. コモンモードチョークコイルとは

まず、コモンモードチョークコイルがどのような部品なのか、基本的な考え方から確認しましょう。
コモンモードチョークコイルは、コモンモードノイズを抑制するために使用される受動部品です。コモンモードノイズの流れを妨げる事で不要なノイズを抑制し、EMIの低減・EMC規格への適合に貢献します。

コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い

電子回路を流れる電流には、2種類の伝わり方があり、「ノーマルモード」「コモンモード」に分けられます。

ノーマルモードは、往復する2本の線を逆方向に流れる正規の電流です。電力や信号を負荷へ届けるための経路で、回路設計上はこの電流だけが流れることを前提としています。
しかし、実際の電子機器では高速スイッチングや寄生成分・逆起電力などによってノイズが発生してしまいます。これがノーマルモードノイズです。

コモンモードは、2本以上の線を同じ向きに流れる電流です。アース(大地)などを経由して戻ってくる性質があります。基板の配線とアースの間には意図せず微小な電気的つながり(浮遊容量)が生まれ、高周波では避けられません。
コモンモードノイズとは、この電流が電源や信号ケーブルに流れ、ノイズとして周囲に放射される原因となるものです。

多くのノイズ対策部品は周波数の差でノイズと信号を分けるため、両者の周波数が近い場面では信号まで減衰させてしまいます。コモンモードチョークコイルは電流の流れ方の違いで判別するため、信号周波数に関係なくコモンモードノイズだけを抑制します。

コモンモードチョークコイルの構造

コモンモードチョークコイルは、1つの鉄心(コア)に2本の導線を巻いた部品です。それぞれの巻線はノーマルモード電流に対して互いに磁束が打ち消し合い、コモンモード電流に対して互いに磁束が強め合うように巻かれています。

各巻線はインダクタンス値や巻線条件が等しくなるように設計されます。コアの材料にはフェライトが広く使われていますが、用途によってはナノ結晶合金やアモルファスなども使われます。形状は用途によって異なり、電源ライン向けの大型品はトロイダル形状が多く、高速信号ライン向けはチップ型に小型化されたものが採用されています。

ノーマルモード電流への影響がない理由

コモンモードチョークコイルにノーマルモードの電流が流れると、2つのコイルで生じる磁束が逆方向にほぼ打ち消し合います。そのため、コイルの影響をほとんど受けることなく、通常の信号や電流をそのまま通します。

逆にコモンモードの電流が流れたときは、磁束が同じ方向に重なって強め合います。これによりインピーダンスが高まり、コモンモードノイズを抑制するフィルタとして機能します。
また、大電流が流れている場合でもノーマルモードの磁束は打ち消し合うため、コアが磁気飽和せず、安定して動作します。

2. コモンモードチョークコイルの主な用途

原理を把握したところで、実際にどのような機器や回路に搭載されているか確認しましょう。

スイッチング電源の一次側ラインへの実装

スイッチング電源の一次側、つまり商用電源と接続する側では、回路内部で発生したコモンモードノイズが電源コードを伝って外部へ伝播し、EMIの原因になります。コモンモードチョークコイルをこのラインに挿入することで、コモンモードノイズの伝播を抑え、EMIの低減に寄与します。

AC電源ライン向けの製品では、コモンモードチョークコイルとコンデンサ(Xコンデンサ・Yコンデンサ)を組み合わせたEMCフィルタが広く使用されています。

このEMCフィルタでは以下の部品が使用されています。

  • コモンモードチョークコイル:コモンモードノイズの抑制。大電流が流れても性能が低下しない構造
  • Xコンデンサ:ノーマルモードノイズの吸収。電源ライン間に設置
  • Yコンデンサ:コモンモードノイズをアースへ逃がす役割。電源ラインとアース間に設置(ノイズ源に近いほうが理想的)

こうしてEMCフィルタにすることで、ノーマルモード・コモンモード両方のノイズを抑えることができます。高いEMI性能が求められるさまざまな電子機器で採用されており、UPSや蓄電システム、データセンタ向け電源など連続稼働が求められる機器がその代表例です。

高速差動伝送ラインへの実装

USB・HDMI・SATAなどの高速デジタル通信は、差動伝送方式を採用しています。差動伝送とは、2本のラインに逆位相の信号を流し、受信側で差分を読み取る方式です。差動信号はノーマルモードで伝送されるため、コモンモードチョークコイルを通過してもほとんど影響を受けません。

コモンモードノイズは2本のラインを同じ方向に流れるため、発生する磁界が加算されて放射ノイズとして問題になります。コモンモードチョークコイルを挿入すると、差動信号への影を最小限に抑え、コモンモードノイズを抑制できます。
通信速度が上がるほどノイズの影響が出やすく、EMI対策の重要性も高まるため、USB3.0・DisplayPort・HDMIなど高速な規格になるほどコモンモードチョークコイルが採用されています。

産業機器・車載機器への実装

インバータ・溶接機・パワーコンディショナ・V2Hなど、大電流と高速スイッチングが共存する産業機器では、コモンモードノイズが発生しやすい環境です。磁気飽和しにくい特徴を持つコモンモードチョークコイルは、大電流が流れるラインでも安定したノイズ抑制が求められる機器に適しています。

車載機器ではCISPR25などの車載EMC規格への対応が設計上の前提となります。コモンモードチョークコイルはEMC対策部品として広く使われています。また、車載用途では動作温度範囲が広く、振動・衝撃に耐える仕様が求められるため、部品選定の段階から環境条件の確認が必要です。

3. コアの種類と周波数特性

コモンモードチョークコイルの性能は、鉄心の材料の特性によって大きく左右されます。用途に合ったコアを選ぶため、それぞれの特徴を確認しましょう。

フェライトコアの特性と適した周波数帯

フェライトは、コモンモードチョークコイルでもっとも広く使用されている鉄心材料です。高周波帯で高いインピーダンスを示すため、数MHz~数百MHz帯のコモンモードノイズの抑制に適しています。また、低コストで量産性に優れていることから、スイッチング電源や家電製品、産業機器、通信機器など幅広い用途で採用されています。
チップ型の小型コモンモードチョークコイルでは、主に高周波特性に優れたNi-Zn系フェライトが使用されており、小型でありながら高周波ノイズに対応できます。
一方で、低周波帯から広い周波数範囲でのノイズ抑制や大電流用途では、ナノ結晶合金などの材料が選ばれる場合もあります。

ナノ結晶合金コアの特性と適した周波数帯

ナノ結晶合金は、高い透磁率と優れた周波数特性を持つ鉄心材料です。フェライトでは十分なインピーダンスを得にくい低周波から中高周波帯まで、幅広い周波数帯のコモンモードノイズを効果的に抑制できます。
また、フェライトと比較して磁気飽和しにくく、大電流が流れる用途にも適しています。そのため、EV・HEV、急速充電器、パワーコンディショナ、産業機器など、高いEMC対策性能が求められる機器で広く採用されています。

コアの選定は、求められるインピーダンス値・対策周波数帯・実装スペースの3条件を基本に、使用環境など考慮して判断しましょう。

インピーダンス特性と自己共振点の関係

現実のコイルは巻線と巻線の間に微小な静電容量が存在し、ある周波数を境にコイル自身がコンデンサのように振る舞い始めます。この境界となる周波数を自己共振周波数(SRF)といいます。これが自己共振であり、その周波数は次式で与えられます。

数式

実際のコイルの周波数特性を測定した例を下図に紹介します。インピーダンスアナライザという測定器で、インピーダンスZ、リアクタンスX、電流と電圧の位相差θ、抵抗成分Rを測定しています。低周波では、位相差θが90°に近い理想コイルとして振る舞うため、Zは、Xにほぼ等しくなっています。周波数が高くなると抵抗成分Rが立ち上がり、位相差θ=0°でZ=R, X=0となる周波数が存在することがわかります。これがfSRFです。周波数f < fSRFではθ>0なので、誘導性リアクタンスが優勢です。一方、f > fSRFではθ<0なので、容量性リアクタンスが優勢になっています。

自己共振周波数
自己共振周波数

コモンモードチョークコイルは、周波数によってインピーダンスが変化し、その振る舞いは誘導性リアクタンス(リアクタンスX)と巻線間の寄生容量による容量性リアクタンス(抵抗R)によって決まります。
低周波領域では誘導性リアクタンスが支配的となり、コイルは誘導性(インダクティブ)として動作します。この領域では周波数の上昇とともにXLが増加するため、インピーダンスも増加し、コモンモードノイズに対して有効な抑制特性を示します。

自己共振点を超える高周波領域では容量性リアクタンスが支配的となり、コイルは容量性(キャパシティブ)として振る舞うようになります。このため、インピーダンスは一定以上の周波数の上昇とともに低下する傾向を示します。

また、インダクタンス値が大きいほど低周波側では誘導性リアクタンスが大きくなりインピーダンスは高くなりますが、同時に寄生容量の影響も受けやすくなり、自己共振周波数が低下する傾向があります。そのため、使用する周波数帯に対して誘導性リアクタンス領域・自己共振点・容量性リアクタンス領域を考慮した設計・選定が重要です。

4. コモンモードチョークコイルの選定基準

動作原理と用途を把握した上で、実際の選定で確認すべきポイントを解説します。

定格電流とインピーダンス値の確認

選定の起点は、定格電流とインピーダンス値の2項目です。定格電流を超えると巻線の発熱や絶縁劣化を招きます。磁気飽和はしにくい設計ですが、巻線の抵抗による発熱は電流に比例するため、大電流ラインでは放熱設計も合わせて検討しましょう。

インピーダンス特性は、インダクタンス値を目安としつつ、メーカーのインピーダンス対周波数特性グラフで確認して決定します。カタログ上のインダクタンス値との実際のノイズ抑制特性には差が生じる場合があるため、周波数特性の確認が重要です。

計算式を参考にしつつ、メーカーのインピーダンス特性グラフと照合して決めます。カタログ値と実測値がずれる場合があるため、周波数特性データの確認が先決です。

使用周波数帯域とコモンモード挿入損失

コモンモード挿入損失とは、周波数ごとのコモンモードノイズをどれくらい抑制できるかを示す指標です。単位はdBで、値が大きいほどノイズ抑制効果が高いことを示します。

以下に、周波数帯別の選定ポイントを整理します。

  • 低周波帯(数kHz〜数十kHz): 電源スイッチング周波数付近の対策。ナノ結晶・アモルファスコアの高インダクタンス品が有効
  • 中周波帯(数百kHz〜数MHz): スイッチング電源の高調波対策。フェライトコアの汎用品で対応しやすい
  • 高周波帯(数十MHz〜1GHz以上): 高速差動信号ラインのEMC対策。差動信号への影響が少ない専用品を選定

広帯域の対策が必要な場面では、コンデンサと組み合わせたLCフィルタ構成も選択肢に入ります。

形状・実装環境に応じた設計条件

電源ライン向けのトロイダル形状などのリード付き品と、信号ライン向けのチップ型では実装工程が異なります。自動実装ならチップ型、AC電源への直接接続が必要ならリード付き品が一般的です。

小型化・低背設計が求められる機器では、外形寸法・高さ・フットプリントを先に確定してから部品を選定するのが確実です。車載や産業機器では動作温度範囲と耐湿性の確認も必要です。標準品で要求を満たせない場合は、カスタム品での対応となります。

5. まとめ

コモンモードチョークコイルは、電流の伝わり方の違いを利用してコモンモードノイズだけを抑制する部品です。スイッチング電源・高速差動伝送ライン・車載機器など、搭載される回路は幅広いといえます。

選定では定格電流・インピーダンス値・使用周波数帯域・実装形状の4項目を確認しましょう。標準品で仕様を満たせない場合は、カスタム品の検討も視野に入ります。

株式会社尾関では、コモンモードチョークコイルのカタログ品はもちろん、カスタム品も対応しており、自社の検査設備による製品評価にも対応しています。仕様のご相談はお気軽にお問い合わせください。

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