鉄損とは? 発生原因からヒステリシス損・渦電流損の違い、低減方法まで解説

製品の省エネ化や発熱対策に取り組む際、大きな壁となるのが「鉄損(てっそん)」の存在です。鉄損とは鉄心部分で発生する電力損失のことで、発熱やエネルギーロスの直接的な原因となります。これをうまく抑えられないと、機器のパフォーマンスが落ちるだけでなく、熱による絶縁破壊や寿命の低下といった深刻なトラブルを招いてしまいます。
本記事では、鉄損の基礎的な定義から、主たる要因である「ヒステリシス損」と「渦電流損」の違い、積層コアをはじめとする具体的な低減手法、設計時に考慮すべき銅損とのトレードオフまで、わかりやすく解説します。
- 1. 鉄損とは
- 2. 鉄損の発生原因と違い
- 2-1. 磁化反転に伴うヒステリシス損
- 2-2. 電磁誘導に伴う渦電流損
- 2-3. ヒステリシス損と渦電流損の違い
- 3. 鉄損を低減する方法
- 3-1. 薄い電磁鋼板を積層構造にする
- 3-2. 高抵抗で保磁力が小さい材料を選ぶ
- 3-3. 動作周波数と磁束密度を抑える
- 4. 鉄損低減における設計上の注意点
- 4-1. 銅損とのトレードオフと総合損失の最適化
- 4-2. 材料コストや加工難易度とのバランス
- 5. まとめ
1. 鉄損とは
鉄損の性質を正しく理解するためには、まずその定義と、他の損失との違いを把握することが大切です。ここでは鉄損の基本構造や、機器に与える影響について紹介します。
定義
鉄損(Core Loss / Iron Loss)とは、交流磁界が加わるモータや変圧器などの鉄心(コア)内部で発生する電力損失の総称です。電気エネルギーが磁気エネルギーを介して変換される際、鉄心自体の磁気特性や電気抵抗に起因して、エネルギーの一部が「熱」として失われる現象を指します。
鉄損は負荷の大きさ(流れる電流の量)にかかわらず、印加される電圧と周波数が一定であればほぼ一定して発生するため、電気工学では「無負荷損(固定損)」とも呼ばれます。
銅損との違い
電気機器における代表的な損失には、鉄損のほかに「銅損」があります。鉄損は鉄心で発生しますが、銅損はコイルとして巻かれている銅線などの導体で発生する損失です。
鉄損は、機器に電圧が印加されて磁界が発生している限り、負荷の大小にかかわらず常に一定して発生する傾向があり、無負荷損と呼ばれることもあります。一方の銅損は、負荷が大きくなり流れる電流が増えるほど、電流の2乗に比例して急激に増加していく性質を持っています。
2. 鉄損の発生原因と違い
鉄損は、大きく分けて「ヒステリシス損」と「渦電流損」のふたつの損失で構成されています。厳密には異常渦電流損なども含みますが、実務上はこのふたつが主要因です。
磁化反転に伴うヒステリシス損
交流電流によって磁界が周期的に変わるとき、鉄心内の磁化の向きも変化します。ミクロに見ると、磁界と同じ向きの磁化の割合は磁界の大きさによって変化します。この変化は磁壁移動と磁化の回転によって生じるもので、磁気的なエネルギー状態が異なります。鉄心の最初の状態と最後の状態に磁気的なエネルギー差があり、その差分が熱に変換します。これをヒステリシス損(Hysteresis Loss)といいます。図のB-H曲線で、曲線a-b-c-d-eで囲まれた面積がこれに相当します。
一般に、周波数に比例し、最大磁束密度の約1.6乗〜2乗(シュタインメッツの実験式)に比例して増大します。交流電流の場合、磁界の大きさは±Hの範囲で動くので、B-H曲線の第1から第4象限で囲まれた面積がヒステリシス曲線です。
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電磁誘導に伴う渦電流損
渦電流損(Eddy Current Loss)とは、電磁誘導の法則によって鉄心内に発生する誘導電流(渦電流)と、鉄心自体の電気抵抗によって生じるジュール熱損失です。
交流磁界が鉄心を通過すると、磁束の変化を打ち消す方向に渦状の電流が流れます。この渦電流損は、周波数fの2乗、最大磁束密度Bmの2乗に比例し、材料の電気抵抗率ρに反比例するという特性を持っています。さらに寸法要素として、珪素鋼板やアモルファスのような板状の場合、渦電流損は板厚dの2乗に比例、ダストコアのように粉末をプレスして製造する材料の場合は、磁性粉の粒径dの2乗に比例します。すなわち、渦電流損Peddy∝f 2・Bm2・d 2/ρです。
ヒステリシス損と渦電流損の違い
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
- 損失の本質の違い:ヒステリシス損は磁壁移動と磁化反転による「磁気的な損失」であるのに対し、渦電流損は鉄心に流れる電流と抵抗による「電気的な損失」です。
- 周波数への依存度の違い:ヒステリシス損は周波数に比例して増えますが、渦電流損は周波数の2乗に比例して増加します。
- 板厚への影響の違い:ヒステリシス損はコアの板厚にほとんど影響を受けませんが、渦電流損は板厚の2乗に比例して大きくなります。
こうした性質の違いがあるため、商用電源などの低周波領域ではヒステリシス損の割合が高くなり、数kHz以上の高周波領域では渦電流損が支配的になります。対象とする機器の動作条件によって、優先すべき対策が変わってきます。
3. 鉄損を低減する方法
鉄損は「ヒステリシス損」と「渦電流損」で発生原因が大きく異なるため、対策もそれぞれ個別に検討する必要があります。発生原因に合わせた具体的な低減手法について解説します。
薄い電磁鋼板を積層構造にする
渦電流損を低減するもっとも効果的かつ一般的な手法が、「鉄心に絶縁被膜処理をした薄板を積み重ねる(積層コア)」構造にすることです。
渦電流損は板厚の2乗に比例するため、例えばひとつの塊(ソリッドコア)の鉄心を使用するのではなく、表面に絶縁被膜を施した薄い電磁鋼板(0.2mm〜0.5mm程度、高周波用ではさらに薄いもの)を何枚も重ね合わせることで、渦電流が流れるループ経路を細かく物理的に分断・分離します。これにより、不要な電流の発生を抑制し、渦電流損を大幅に減少させることができます。
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| ソリッドコアの渦電流(大) | 積層コアの渦電流(小) |
高抵抗で保磁力が小さい材料を選ぶ
使用する磁性材料自体の特性を最適化することも大切です。
- ヒステリシス損の低減:B-Hループの幅が狭く、透磁率が高い軟磁性材料を採用します。ケイ素(Si)を添加した無方向性電磁鋼板や方向性電磁鋼板が広く用いられます。
- 渦電流損の低減:鉄にケイ素を添加して電気抵抗率を高めたケイ素鋼板や、金属粉末を絶縁コーティングして固めたダストコア、電気抵抗率が高いセラミックス材料であるフェライトコア、溶解した合金を噴出して極薄の板材をつくるアモルファス合金やナノ結晶合金材料などを、動作周波数帯に応じて選定します。いずれの鉄心材料も複数のメーカーや品番があります。特にダストコアは構成元素や粒子の大きさ、形状など幅広いレパートリーが用意されており、使いやすい材料です。ナノ結晶合金は薄板化が一層進み、大容量の高周波トランスに多く使われるようになってきました。
動作周波数と磁束密度を抑える
回路・構造設計側からのアプローチとしては、鉄心に加わる動作磁束密度を下げる設計が有効です。鉄心の断面積を広げて磁束密度を低く抑えることで、ヒステリシス損と渦電流損の双方を低減できます。さらに、インバータ駆動時に含まれる高調波成分も鉄損を増大させる要因となるため、PWM制御の最適化やフィルタ回路による高調波抑制を組み合わせることが推奨されます。
4. 鉄損低減における設計上の注意点
鉄損を小さくすることは重要ですが、それだけを追求すると製品全体の性能やコストに歪みが生じかねません。実務において直面するトレードオフやコストとのバランスについて解説します。
銅損とのトレードオフと総合損失の最適化
機器全体の効率を高める際、鉄損のみを極端に削減しようとすると銅損が悪化する「トレードオフ関係」に注意が必要です。
例えば、磁束密度を下げるために鉄心の断面積を大きくすると、その周囲に巻くコイル(巻線)の長さが長くなり、巻線抵抗が増加して銅損が増大します。逆に、巻線を太くして銅損を減らそうとすると鉄心寸法や形状が制約を受け、鉄心側の磁束密度が高くなって鉄損が増えるケースがあります。銅損の減少には自動化巻線技術が進んだエッジワイズコイルの適用、銅箔巻線による断面積の拡大などの方法もあります。
一般に、定格負荷での連続稼働が多い機器では「鉄損=銅損」となるポイント付近で総合効率が最大化すると言われており、機器の想定稼働プロファイル(低負荷稼働が多いのか、全負荷稼働が多いのか)に応じた最適設計が求められます。
材料コストや加工難易度とのバランス
鉄損が少ない高性能な材料は、コストや製造のしやすさに課題を抱えていることが少なくありません。例えばアモルファス合金は優れた低損失特性を持ちますが、材料自体が高価であり、硬くてもろいためプレス加工の難易度が高くなります。
薄いケイ素鋼板を何枚も重ねて積層コアを作る場合も、枚数が増えるため組み立て工数が増加し、打ち抜き加工時の金型の摩耗も早くなります。自動積層プレス技術を有するメーカーの選択、積層ではなく巻きコア、カットコアの採用など要求される性能と量産時の製造コストを天秤にかけ、過剰品質にならない適切な材料と構造を選択することが必要です。技術的な理想だけでなく、ビジネスとしての実現性も加味した設計が必要です。
5. まとめ
鉄損は、モータ、トランスやリアクトルなどのエネルギー変換効率や熱設計を左右する重要な要素です。磁化反転に由来する「ヒステリシス損」と、電磁誘導に由来する「渦電流損」の特性を理解し、積層構造の採用、低損失磁性材料の選定、銅損とのバランス調整を行うことが重要です。
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